関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

高橋義忠調教師

高橋義忠調教師

-:いつ頃から調教師になることは意識され始めたのでしょうか?

高:意識というか、ずっと試験は受けていたんですけれど、自分の中で、もう一つ真剣に取り組めていなかったんでしょうね。
そこで、父親も引退する間際になって、継ぐ意識はなかったのですけれども、「ここは踏ん張りどころだな」と思いました。歳を重ねてから調教師になっても、苦しくなるでしょうし、そこは頑張りましたね。


-:開業されるにあたって、苦労された事も教えて下さい。

高:苦労というと、きりがない程ありましたね。まずは、開業まで日にちがなかったこと。皆さんは「技術調教師」として、どこかの先生について、調教師としての仕事をみせてもらって、心の準備や馬の準備も出来ると思うんです。
僕の場合は12月に調教師試験に合格して、1月の中旬に3月の開業が決まりましたからね。それこそ、2ヶ月ちょっとの準備期間で、2歳馬なんかも、他の先生に決まっていたところを、譲り受けさせていただいたりもしました。開業まで、調教助手として働いていたら、牧場も見に行くこともできなかったですからね。育成牧場も見に行ったりしました。厩舎を始める前は、2ヶ月で2日に1度は飛行機に乗っていた気がします。


-:開業するとなると、調教の方針とかも決めなくてはいけないですね。

高:開業前に従業員の皆さんに数回集まってもらい、方針については話をしました。うちの場合は、他の(引退)厩舎からのスタッフが来ることはなく、父親の厩舎のスタッフからウチの従業員に集まってもらう形だったので、何も考えがなかったら、必然的に今までと全く同じ仕事内容になります。
けれども、「これからの時代を戦っていくため、変えるなら、今しかない」と思い、新しいやり方を訴えてて、厩舎のために受け入れてもらいました。


-:今までのやり方を帰るのであれば、抵抗はあったでしょうね。

高:そうですね。正直、ないといえば、嘘になるかもしれません。でも、「馬が走るために努力する」という意識を従業員の皆さんが守ってくれているので、思った以上に、まとまって出発することができました。
例えば、今までは自分の担当している2頭の世話が中心で、他の人の仕事が残っていても帰ってしまい、一生懸命仕事をしている人がポツーンと残ってやっていたりすれば、「それはおかしいだろう」となりますよね。
そうじゃなくて、厩舎の屋号があって、個々で出来ない分は、皆で補いあって、結果を出していこうよと。その方が成績を出した時に、皆で喜べますよね。


-:チームであり、ファミリーにしたいということですね。

高:日本人のいいところは、そこだと思うんです。本当にまとまった時には爆発的な力を出せる、そういう国民性があるので、そこを活かさない手はないなと。もちろん、個々が技術を切磋琢磨していくことは重要で、それが全体としてのレベルアップに繋がると思います。



-:お父さんも、言葉数は少ないですけれども、意識はある人でしたよね。

高:そうですね、意識は人一倍あるけれども、口に出して伝えるタイプではなかったですね。

-:お父さんの厩舎で吸収したこともたくさんありますよね。

高:沢山ありますね。馬は丁寧に見ていかないといけないし、馬主さんとも丁寧なお付き合いをしないといけないというか、実直に向き合っていかないといけないところでしょうか。
昔の人は昔の人なりの良さもあって、取り入れていかないといけないと思うところも一杯あるんですけれども、反面教師で時代の流れに沿って、スタイルは変えていかないといけないのかなと。


-:これから、調教のスタイルなどで、大まかなプランはありますか?

高:とにかく重視しているのが、基礎調教といいますか、うちは厩舎から逍遥馬道を上がって運動をしているんですけれども、角馬場でダグやハッキングをするようにしています。
そういう馬術のいいところも取り入れながら、馬の持っているものを少しでも引き出してやろうと。ただ走らせるだけではなくて、ベーシックなところを大事にはしています。


-:先ほど、厩舎を拝見したら、スタッフへの伝言や指示を細かにホワイトボードに書かれていましたね。

高:うっとうしいかもしれないですけれども、書いておかないとわからない事もあると思うので、書くようにはしています。
馬房の方には馬主さんが来られた時に、自分の馬の名前などがしっかり書いてあれば、嬉しいと思いますし、どこに自分の馬がいるかわかった方がいいでしょうからね。
他にも、出張などで、他の担当者が触らないといけないこともあるわけですから、どれだけエサをやっているかとか、書けるように、誰が触ってもわかるようにああいう風にしています。


-:これから、ジョッキーの起用方法など、大まかなプランはありますか?

高:まだ、出走回数自体が少ないものですから、ちょっとのチャンスの中から、モノにしていかないといけないと思っています。今後、自分の気持ちとしては、若い騎手でも沢山乗せてやって、育ててやりたい気持ちはあります。

将来は世界を、そして、意外性のある馬造りを

-:今年は開業されてから、震災の影響で開催が減った状態だっただけに、新規開業の調教師さんは、例年以上に大変だったと思います。

高:逆に怖いもの知らずじゃないですか(笑)。先輩の調教師さんにも『大変な時期に調教師になったなあ』といわれますよね。でも、考え方一つで、何とでもとれますし、なってしまった以上は、突き進むしかないですからね。自分のためだけじゃなくて、従業員や馬主さん、生産者など、数えきれない人が一つの馬に携わっていますからね。
一つのことで喜べるかといったら、そうじゃないし、色々な人の立場で喜んでもらえるような環境にできたらいいとは思いますね。


-:色々なことに決定権があると思いますが。ポロシャツの「TO THE WORLD」はどんな思いが込められているのでしょうか?

高:やっぱり、始まりがイギリスだったので、理想はお世話になった調教師さんと同じレースに出て、マッチレースをしたいなと。
当然、日本で成績を残さないと、海外なんていけないですけれど、視野は海外に向いているという意味でいれてみました。




-:馬主さんとの兼ね合いもあると思いますが、「こういう馬を造りたい、こういう馬が好きだ」というタイプはありますか?

高:個人的にはあまり人気がなくて、「エッ~?」みたいな勝ち方をしたいですね(笑)。血統がそれほどよくないとしても、その馬の力を最大限に引き出し、活躍させてやりたいですね。

-:コース条件などの好みはありますか?

高:できれば、長距離で走るような馬が好きですね。そういう馬を造りたいと思っているのですが、そういうレースがなくなっているという…。そのギャップはありますよね。

-:開業当初、JRAのHPでの公式コメントには『凱旋門賞を勝ちたい』とコメントされていましたね。

高:実際にメイショウサムソンでフランスに行かせてもらって、その時はサムソンの仕上がりも良かったので、色気もあったんです。けれども、競馬が終わってから、「こうしておけばよかった」という反省点がいくつか出て来ました、そういう経験を踏まえて、ああいう馬が出た時は、その反省を生かしてやりたいなと。凱旋門に限らず、ヨーロッパの競馬で勝ちたいというのはありますよね。

-:サムソンの帯同馬も走らせていましたよね。

高:今、高知にいますよ。ファンドリコンドルですね。豊さんが『これ、そのままフランスにおいていたら、もう何戦か走ればG3くらい勝てるで』って、真剣に仰ってましたからね。
向こうの小林智調教師もそう言っていましたし、置いておいてよかったくらいです。日本で埋もれているような馬がいけば、ポンと勝てたりすることもあると思いますよ。


-:日本はスピードに特化しすぎている部分もあるから、そういうことはありそうですね。

高:イギリスだったら、難しいけれども、フランスなら、ある程度、力があって、スピードもあればいいと思いますね。

-:夏へ向けての目標はありますか?

高:むちゃな事だったんですが、「年間20勝」といっていたんです。従業員も驚くかもしれませんが、現実的な目標って、あまり目標にならないと思うんです。あくまで高いところを目指そうと。

-:20勝まで、あと17勝です(笑)。

高:競馬に使えないですからね。皆さん、『一人前になるまでに3年はかかると』言っていましたが、日々、昨日よりも今日の方がわかってきているというか、自分も日々、色々なことがわかってきた段階ですからね。今、当歳の馬が厩舎に入って、引退していくサイクルをみたら、もっとわかるようになるんでしょうね。

-:以前から、馬の体や立ち方は意識してみていられましたか?

高:G1馬がいたら、どんな歩様をしているのか?とかは意識して見るようにはしていましたが、難しいですよね。あのディープインパクトも、最初は小さくて、あんなに走ると思いませんでした。

-:最後に、約3ヶ月が経過されての手応えはどうでしょうか?

高:地道にコツコツと成績をあげていかなければ、と実感しています。

-:でも、馬はまじめ過ぎれば、結果が出るわけでもないですよね。

高:それは厩舎の雰囲気もあると思います。雰囲気のいいところはおのずと、結果を残していますよね。やることはやりつつ、皆が一つの方向を向いていれば、皆、大人ですし、プロですからね。色々と厩舎の中にも書いていますけれど、今は段階を登って行かないといけないですし、基礎を忘れないようにね。

-:改めて、ファンへ向けて、メッセージをお願いします。

高:派手さはないけれど、人気以上の結果をもってこられるような渋い厩舎を目指したいですね(笑)。見た目はスタイリッシュにしたいですけれど、赤ペンを耳に挟んでいるようなおじさん達に応援してもらえるような…、そんな厩舎にしていきたいと思います。

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【高橋 義忠】 Yoshitada Takahashi

1969年滋賀県出身。
2011年に調教師免許を取得。
2011年に厩舎開業。
JRA通算成績は3勝(11/6/26現在)
【初出走で初勝利】
11年3月6日 1回阪神4日目2R メイショウサリマン


父は関西所属の騎手として、初めて全国リーディングになるなどの活躍をみせた高橋成忠氏。イギリスでの経験を経て、1995年に栗東の吉岡八郎厩舎に配属されると、99年には父の高橋成忠厩舎に移籍。
そして、昨年末に見事、調教師試験に合格すると、父の厩舎の管理馬・スタッフを受け継ぎ、この3月から厩舎を開業。厩舎の調教服は紺地に赤のラインが映える、スタイリッシュなデザインを用いている。