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久保敏也調教助手

2010年のダービー馬・エイシンフラッシュ。ターフを去る同期も増えてきたが、6歳を迎えてますます安定感を増してきた印象さえある。前走・天皇賞(秋)は消化不良の展開になりながらも3着と健闘。悔しさを残しつつも、改めて強さを示すレースとなった。3年半前、世代の頂点に立った舞台で3つ目のG1タイトル獲得へ。衰えを知らないエイシンフラッシュの持つ"強さ"と"美しさ"の理由について、担当する久保敏也調教助手が語ってくれた。

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枠順確定後・久保敏也調教助手のコメントはコチラ⇒


最終追い切り後・藤原英昭調教師のコメントはコチラ⇒


3着だった天皇賞(秋)はこう見る

-:エイシンフラッシュ(牡6、栗東・藤原英厩舎)について伺います。まずは前走の天皇賞(秋)ですが、残念と言うべきか、よく頑張ったと言うべきか……。久保さんの感想を教えて下さい。

久保敏也調教助手:悔しいという気持ちもあるし、重たい馬場、外々を通らされたという不利からよくあそこまで追い上げてきたなと、状態の良さは窺えたので安心した部分もあります。でも、流れが向いていればもっと接戦だったのではないかなという期待があったので、そこは残念でした。

-:これまで負けたことがなかったジャスタウェイにあれだけ離されたという結果に、エイシンフラッシュのファンにとってはかなりショッキングなレースだったかもしれません。

久:あれはもう、福永祐一騎手と馬を褒めてあげないといけないレースでしたよね。G1になると、ちょっとした展開や、不利・減速があれば取り返しの付かない戦いになってしまいますので、しょうがないかなと。

-:あの着差は特に悲観することはないということですね。

久:ないと思います。フラッシュの力が出せれば差は詰まっていたと思います。

-:いよいよ迎えるジャパンカップ。距離が2ハロン延びるわけですが、ダービーもこの距離で勝っていますし、有馬記念でも2着に来ています。エイシンフラッシュにとっては問題ありませんか?

久:何にせよ、この馬は昔から言われているように折り合いがカギです。今年に入って精神的に落ち着いたというか、やっと身体と気持ちのバランスが取れてきたという部分がレースにも凄く出ているので、今回のジャパンカップに関しては自信を持って出走できると思っているんです。

-:これまでのリベンジという意味もありますね。

久:どうしても、道中折り合いを欠いてしまって悔しい思いをしたレースも多かったのでね。

-:今年に入ってから特に、惨敗がなくなったという印象があります。その辺が精神的な成長なのでしょうか。

久:そうだと思います。やはり大きいと思います。

-:普段の調教で感じるところはありますか?ハミの取り方とか。

久:いつも、追い切りの時は乗り役さんに乗ってもらっているんですけど、3・4コーナーになるとハミを噛んでグッと行きたがって、乗り手をてこずらせる一面がしょっちゅうあったんです。それがなくなって、直線を向くまで落ち着いてコーナリングできるようになったので、かなり成長したと思います。

-:乗り手の指示を待ってから、走ってくれるということですね。それは藤原調教師が常に言っている"乗りやすい馬を作る"ということですか?

久:はい。うちの先生(調教師)がこだわってきたことが、実になっているんだと思います。

若い頃と変わらない筋肉

-:2歳の頃から何度も言われているかもしれませんが、「厩舎が違ったら、普通のマイラーになっていたかもしれない」というくらいの気性だったのが、ダービーを勝ったり、G1の中距離路線でこれだけの成績を挙げられる馬になったということは、普段の調教や取り組みが良かったのではないかと思います。久保さんも苦労されたんじゃないですか?

久:正直、若い頃は本当に苦労しましたよね。僕のやることは限られているんですが、その限られた仕事の中で、常にリラックスさせることを心がけてという感じで。ちょっとした物音があったり、ちょっと風景が変わっただけで、凄く自分の中で盛り上がってしまう馬なので、それをなだめて抑えることがすごく大変でした。先生の思惑通りに長い目で見て、1頭の馬がスムーズに走れるようになるのに何年もかかるんだな、という難しさを実感できましたし、それが今になってやっと実を結んで、力が発揮できるようになりました。

-:久保さんの拘りなのかなと思ったのですが、調教後に厩舎に帰ってくる際、鞍を外して、馬服を着せて歩かせているじゃないですか。運動している馬の多くは鞍を付けっぱなしで歩いているのを見かけますが、その点もフラッシュのことを考えてですか?

久:鞍を付けているだけで馬はストレスを感じるので、ちょっとしたことでも、ひとつひとつストレスを取り除いてあげようという気持ちでやっています。鞍を取って歩いていると、フッと力も抜けて、リラックスして歩くことができるので。

-:カッカして歩かれると久保さんも大変ですからね。

久:そうですね(笑)。それでも周りが暴れたりすると、すぐに反応して、大変なことになってしまいますからね。洗い場に行って、身体を洗って、馬房の中に入ってご飯をつけるまでは、かなり神経を使います。




-:写真を撮る際にも、とても気を遣います。

久:いつも迷惑かけてスミマセン。

-:いえいえ(笑)。最近はメンコをつけて、折り合いに進境が見られましたが、今回も同様にメンコを?

久:はい、同じで行こうと思います。

-:今年の成績に繋がりそうな点で、フラッシュに何か変わったことはありますか?

久:飼い葉食いはもともと良い方なので、その辺はあまり変わってないですね。

-:おっちゃん体型にならないですよね。6歳頃になると若い頃より体重が増えたり、身体のラインが変わったりすることがありますが。

久:ならないですね、若々しいです。この馬に関してはその点がいいところでもあるのかな、という気はしますね。気持ちも若い頃と変わらないし、追い切りが終わってから競馬までの気持ちの持っていき方も変わらないので、いい成績に繋がっているんじゃないかなと思っています。

-:昔は穴馬の一頭という存在だったかもしれませんが、G1レースの常連となって安定してきました。2歳から調教を続けていると、どうしても筋肉が硬くなりがちですが、フラッシュはどうですか?

久:ならないですね。本当に若い頃と変わらない素晴らしい筋肉です。柔らかみがあるというか、モッチリしたような。衰えを感じさせない身体つきで今も来ているので、こちらも驚くところです。


「手入れに関しては凄く意識しています。生産者や馬主の方など、いつどこで誰に見られても“可愛がられているな”と思って欲しいですし、どこの馬よりも綺麗に、よく見てもらえるように気をつけています。日頃から手を抜かないでキッチリやっているつもりです」


-:夕方頃の厩舎に来てみると、いつも遅くまで馬に電気を当てたりしていますが、それも若さを保つ秘訣なんでしょうか?

久:こちらとしては、疲れをとってあげようという気持ちで接していますけど、それが馬にも伝わってくれているといいですけどね。

-:その時のフラッシュは、荒くれ者じゃないんですね。

久:もうトロンとしています。リラックスしながらご飯を食べているので、「ハイ、どうぞ」という感じで。

-:ファンの前に出てくるエイシンフラッシュは、とても綺麗でかっこいい馬ですが、手入れする時や、細くなった身体を増やしてあげたりするときの苦労はありますか?

久:やっぱりありますね。手入れに関しては凄く意識しています。生産者や馬主の方など、いつどこで誰に見られても「可愛がられているな」と思って欲しいですし、どこの馬よりも綺麗に、よく見てもらえるように気をつけています。日頃から手を抜かないでキッチリやっているつもりです。元々、馬の毛色や造りも綺麗なので、さらによく見えるように。

-:ブラッシング等のこだわりはありますか?

久:まずは綺麗にする前に、常に身体をこすってあげて、マッサージ効果と言いますか、血行を良くしてあげるようにしています。そうすると自然に馬も光ってきますので。それからブラッシングをして、鞍を置いて厩舎を出た後に、15~20分ほど引き運動をします。鞍を身体に馴染ませてあげて、身体を使える程度に温まってきたら跨る、という感じです。急に乗ってしまうと、身体が硬いままで背中を痛めたりしてしまうので。先生も凄く気を使っていて、「とりあえず何周か回ってから跨るようにしてくれ」という指示もあります。

-:人間で言うと、ちゃんとストレッチをしてから運動するということですね。

久:そういうことですね。

-:追い切りの前に坂路を使われる時もありますが、坂路の走りはあまり得意ではないように感じられませんか?ピッチ走法の馬は坂路を走りやすそうに駆け上がって行きます。

久:この馬は大跳びですからね。全開で坂路を走ることはないですけど。

エイシンフラッシュの久保敏也調教助手インタビュー(後半)
「悔しさをぶつけるジャパンカップ」はコチラ→

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【久保 敏也】 Toshiya Kubo

1971年3月生まれ。北海道出身。母方の実家は井高牧場(最近ではドリームライナー[オープン馬]などを生産)を経営。幼少期から馬に携わる。
もともと競馬に興味がなかったが、高校卒業後、家族の勧めで競馬学校に入学。厩務員課程を経て、オグリキャップが現役時代の瀬戸口勉厩舎に入り、10年間勤務。その後山内研二厩舎でも10年間を経て、現在の藤原英昭厩舎に勤務。
瀬戸口厩舎では、ナリタブライアンと同期のマルカオーカン(ダービーでは7着)。山内厩舎でフィーユドゥレーヴ(函館2歳S)、今年の皐月賞にも駒を進めたダノンバラードの母・レディバラード(TCK女王盃など、通算7勝)などを手掛けた。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。