世界に通ずる騎乗スタイル
2012/1/13(金)
-:日本の騎手の間でも高く評価されているルメール騎手の騎乗スタイルについて教えてください。いつも冷静で、接戦のゴール前でも追うリズムを変えずに乗っています。それにムチを連打したりはしませんね。
ルメール:サンキュー、それが僕のスタイルだから変えられないね。もし機会があればオリビエ・ペリエやフランキー・デットーリの騎乗もチェックしてみてよ?彼らを見て気づくのは“バランス”だよ。馬の上でいかにバランスを保つか。そこが一番重要なんだ。日本で言えばユタカなどは追っている時にあまりブレないでしょう。あれが一番難しいし、走っている馬の邪魔をしないように気をつけている。世界のトップにランクされる騎手は皆、あまり馬の上で激しく動いたりしないものだよ。そういう騎手に走る馬が回ってくればベストの組み合わせになるんだよ。
-:メンディザバル騎手のスタイルはどんな感じですか。
メンディ:僕はクリストフより背が高いし、手足の長さも違うから必然的に乗るポジションが変わってくる。だから、僕たち二人が違う乗り方になるのは当然だし比べようがないんです。若い時にキャッシュ・アスムッセンに憧れたり、いろんな騎手の良いところを吸収しようとして、結果的に今のスタイルになったんです。
-:メンディザバル騎手が選ぶ自身のベストレースを教えてください。
メンディ:アイムユアーズも上手く乗れたと思うけど、府中のアプローズ賞で勝ったアドマイヤセプターは上手く乗れたと思います。ちょうど近藤利一オーナーの記念すべき500勝目だったんですよ。
-:12月4日、阪神の未勝利戦で勝ったエリアコンプリートの騎乗も見事でした。道中は追っつけながらポジションをキープして勝つんだからビックリしました。いかにもヨーロッパの騎手という感じに見えました。
メンディ:ちょっとズブいタイプだから、そういう風に見えたんだよ。ずっと押しっぱなしじゃ、僕がしんどいからね(笑)。馬との呼吸だけ考えて、押したり、息を入れたりしながら4コーナー回っても手応えはあったから。休み明けでフレッシュだったのも良かったんだろうね。
-:同じ日にルメール騎手が新馬戦で乗ったアダムスピーク。このレースもルメール騎手らしい鮮やかさでした。アダムスピークの将来性を聞かせてください。
ルメール:この馬の見た目はスラッとしているけれど、力強さもあって非常に好きなタイプです。今週のラジオNIKKEI杯でも可能性はあると思っています。ディープインパクトは種牡馬としても成功しているし、アダムスピークにも(乗ったことはないけれど)ディープらしさを感じるよ。
-:ルメール騎手といえば08年のJCダートで勝ったカネヒキリが印象的なんですが、あのレースは上手く乗って勝ったレースでしょうか。
ルメール:まず、カネヒキリのような有名なG1ホースに乗れただけでもラッキーだった。カネヒキリの素晴らしさはダートなのに差す脚を持っているところ。あの時も2着のメイショウトウコンが外から物凄い脚で追い込んできたのを僅差で残したように、勝とうとする気持ちを持った馬だったね。騎手としては簡単じゃない馬だし、ちょっと短気な面もあるから内でじっと脚をためて直線抜け出したんだけど、カネヒキリがなんとか凌いでくれたよ。
-:また、競馬ファンの中には、ムチで叩いたら馬が伸びると思っている人もいます。お二人の乗っているヨーロッパではムチに関して厳しい規制があり、叩く回数もチェックされています。日本のファンにムチの話を聞かせてください。
ルメール:ムチで叩けば馬が走るわけじゃない。どうやってゴール前まで力を残しておけるかが重要なんだよ。ヨーロッパ日本に比べては動物愛護団体の力が強く、ムチで叩く=馬を傷つける、という考え方だからね。動物愛護団体にとって競馬とか馬券が絡んでいることは眼中になく、動物を守るという視点だけでムチを規制しているんだよ。
メンディ:その背景にはいろんな問題が絡んでいるから日本より複雑なんですよ。でも乗る方は大変で、例えば最大8回まで叩ける規制があるなら直線で5、6回まで叩いて最後の最後に残りの一発を残しておくんです。
-:レースで乗りながらムチの回数を数えているんですか。
メンディ:そうそう。自分でカウントしながら乗っているんです。
-:誰かが各ジョッキーのムチの回数を数えているんですか。
ルメール:そう…、だと思うよ。良く知らないけれど、数えている人がいるんだろうね(笑)。
メンディ:回数以外にも規制があって、イギリスでは連続で叩いたらいけないルールがある。1回ムチで叩いたら3完歩待ってからしか叩けないルールだから難しい。実際のレースでは勝負がかかっているのにムチの叩き方まで考えて乗らないといけないんだからね。
-:ムチの規制がある中で、ムチ以外に馬を走らせる合図は何かありますか。
ルメール:それは、もう馬を押すしかないよ。それでゴール前、ムチの使用制限の回数を叩いてしまっていたら馬に叫ぶしかないね(笑)。
メンディ:僕は追い出す時に舌で「チッ」っと鳴らして反応させている。「チッチッ」じゃなくて、「チッ」っと1回鳴らすのが僕流だよ。
プロフィール
クリストフ・パトリス・ルメール
(Christophe Patrice Lemaire)
1979年5月20日生まれ。フランス国籍。身長163cm、体重52.5kg、血液型B型。
1999年にフランス騎手免許を取得すると、間もなく頭角を現し、02年より短期騎手免許を取得して来日するようになる。
日本での重賞勝利までには時間が掛かったが、05年の有馬記念では追い込み脚質だったハーツクライを先行させ、三冠馬・ディープインパクトを封じて、見事、初重賞制覇をG1制覇で飾った。
他にもカネヒキリと挑んだ08年のJCダートや、09年のウオッカでのジャパンカップなど、テン乗りを物ともせず、大仕事をやってのけていることで日本のファンにも馴染みは深い。
現在、ヨーロッパではアガカーン殿下やオーギュスタン・ノルマンといった大馬主と専属契約を結んでいる。昨年も祖国フランスのサンクルー大賞や、オーストラリアのメルボルンカップなど、世界のビッグレースを制覇。世界トップクラスのジョッキーである。
イオリッツ・メンディザバル
(Ioritz Mendizabal)
1974年5月2日生まれ。スペイン国籍。 身長170cm、体重53kg、血液型O型。
1994年にフランス騎手免許取得。04年に初めてフランスリーディングに輝くと、08~10年も3年連続でリーディングを獲得。
また、日本では3度目の出場となった08年のワールドスーパージョッキーズシリーズで、45ポイントを獲得して総合優勝を果たした。
昨年秋に初めて短期免許を取得して、日本での騎乗をスタート。通算132戦15勝をマーク。アイムユアーズに騎乗したファンタジーSでは日本での初勝利を重賞制覇で飾った。