2011凱旋門賞を振り返って
2012/1/13(金)
-:続いて、ルメール騎手がサラフィナで挑んだ2011年の凱旋門賞の回顧してもらえますか?
ルメール:レース前から周りも期待していたし、僕もサラフィナにとって大きなチャンスだと思っていた。でも彼女にはペースが厳しくて直線では余力が残ってなかった感じですね。レースではスムーズに乗れたし詰まることもなく、何の問題もなかったんだけど。
-:ロンシャンの外枠というのも厳しかったのでは。
ルメール:もちろん外枠ちょっと気になったけど、道中では思ったとおり中団の後ろにつけられたから外枠の不利はリカバーできたと思う。それよりサラフィナは今まで速い流れを経験していなかったから、あの速いペースに対応できなかったんだろうね。いつもフォア賞のような感じでゆっくり走って最後にスパートするレースばかりだったから。そういう流れなら少々折り合いを欠いてもサラフィナは直線で凄く良い脚を使ってくれるタイプなのかもしれない。
-:フォア賞を見ると、折り合いを欠いて非常に乗り難しそうで、もっと速いペースの方が合うのかと思っていましたが、ペースが速すぎてもダメなんですね。
ルメール:たしかにフォア賞はむちゃくちゃ掛ったよ(笑)。だから僕も速いペースの方が折り合って良いのかと思っていたんだけど、追走に脚を使わされた感じで最後の直線ではスタミナが残っていなかったね。そう考えると距離も少し長かったのかもしれないね。
-:あの日のロンシャンの芝コースは非常に硬かったのも影響しましたか。
ルメール:馬場は全然関係なかった。サラフィナには「ペースが合わなかった」としか言いようがない。
-:メンディザバル騎手も2008年の凱旋門賞ではヴィジョンデタで5着でしたね。あの年はメイショウサムソンが挑戦していたので日本のファンにもなじみのレースだと思います。
メンディ:ザルカヴァが勝ったレースですね。ヴィジョンデタはジョッケクルブ賞(G1)、つまり仏ダービーを制した馬なんだけれど非常に乗りやすい馬でした。ヴィジョンデタに限らず能力のある競走馬はたいてい乗りやすさも兼ね備えているものなんですよ。例えば、日本のブエナビスタなんかも乗りやすいと思いますよ。
-:そんな馬に凱旋門賞で勝ったザルカヴァは相当な能力を持った馬だったんですね。
メンディ:今のフランスで最強牝馬と言ったらゴルディコヴァでしょう。もしもザルカヴァが早くに引退していなかったら今のゴルディコヴァはなかったと思います。それくらいザルカヴァは強かったんです。
-:ところで、メンディザバル騎手の乗っていたヴィジョンデタは馬格的にどんなタイプでしたか。
メンディ:体は大きくないし、痩せていて見栄えのする馬じゃなかった。本当に普通の馬で、特別なところはなかったですよ(笑)。たしか購買価格もかなり安かったんじゃないかな?それでもデビューから5連勝で仏ダービーを勝ってしまうんだから馬はわからないね。
-:ヴィジョンデタの父チチカステナンゴも日本で種牡馬入りしていますね。
メンディ:チチカステナンゴは当初、フランスでもそれほど期待されていた種牡馬ではなかった。でもヴィジョンデタの活躍でチチカステナンゴの評価も上がりましたね。日本でも意外に活躍馬が出るかもしれませんよ。
-:凱旋門賞には、これまでも日本からエルコンドルパサー、ディープインパクト、メイショウサムソン、ナカヤマフェスタ、ヴィクトワールピサ、ヒルノダムール、など多くの馬が挑戦していますが、まだ勝った馬はいません。
ルメール:ディープインパクトの時は、僕もプライドに乗っていて勝ったレイルリンクに惜しくも負けてしまった。今、思い出しても悔しいくらい。思ったところで動けなくて、少し追い出しが遅れてしまったのが悔やまれるなぁ。当時はディープインパクトが強いと思っていたからね。ディープ1頭にターゲットを絞って乗っていた中でちょっとした不利があって最後の最後でレイルリンクを交わせなかった。もしも、すんなり追い出せていたら勝てたのか?今でも考えることはあるけど、レイルリンクは3歳で斤量差もあったのが大きな勝因だね。その斤量差が魅力で海外からも3歳馬が凱旋門賞に挑戦するくらいだから。
-:当時6歳牝馬のプライドが58キロを背負って、ロンシャンの重い馬場をあの脚で追い込む。ちょっと日本ではケースのない話ですね。
ルメール:向うは56キロだからね。3歳といっても、その年の終わりには4歳に近づくわけで凱旋門賞を戦う上で斤量差はすごく大きな差なんだよ。それにしても、あのレースのプライドは良く頑張って走ってくれた。それだけに悔しさも残るレースだったね。
メンディ:ディープが来た時の凱旋門賞は僅か8頭しか出ていなかった。毎年、多頭数になる凱旋門賞としては異例のことだったんです。もし、もっと頭数が揃ってレースの流れが違っていたらディープが勝ったんじゃないかな?だって、あの年の凱旋門賞はヨーロッパでよくあるスローな流れだったんだけど、日本の競馬はもっと速いでしょう。ディープは慣れないスローペースに苦しんだんだと思うね。例えば去年の凱旋門賞くらい流れていたらディープは勝てたと思うよ。日本競馬の最高峰ジャパンカップに8頭しか出ないなんてこと、ある?ないでしょう(笑)。それくらい特殊なケースだったんだよ。
プロフィール
クリストフ・パトリス・ルメール
(Christophe Patrice Lemaire)
1979年5月20日生まれ。フランス国籍。身長163cm、体重52.5kg、血液型B型。
1999年にフランス騎手免許を取得すると、間もなく頭角を現し、02年より短期騎手免許を取得して来日するようになる。
日本での重賞勝利までには時間が掛かったが、05年の有馬記念では追い込み脚質だったハーツクライを先行させ、三冠馬・ディープインパクトを封じて、見事、初重賞制覇をG1制覇で飾った。
他にもカネヒキリと挑んだ08年のJCダートや、09年のウオッカでのジャパンカップなど、テン乗りを物ともせず、大仕事をやってのけていることで日本のファンにも馴染みは深い。
現在、ヨーロッパではアガカーン殿下やオーギュスタン・ノルマンといった大馬主と専属契約を結んでいる。昨年も祖国フランスのサンクルー大賞や、オーストラリアのメルボルンカップなど、世界のビッグレースを制覇。世界トップクラスのジョッキーである。
イオリッツ・メンディザバル
(Ioritz Mendizabal)
1974年5月2日生まれ。スペイン国籍。 身長170cm、体重53kg、血液型O型。
1994年にフランス騎手免許取得。04年に初めてフランスリーディングに輝くと、08~10年も3年連続でリーディングを獲得。
また、日本では3度目の出場となった08年のワールドスーパージョッキーズシリーズで、45ポイントを獲得して総合優勝を果たした。
昨年秋に初めて短期免許を取得して、日本での騎乗をスタート。通算132戦15勝をマーク。アイムユアーズに騎乗したファンタジーSでは日本での初勝利を重賞制覇で飾った。