救われた一言


-:そして、白浜騎手から見た高田騎手はどんな印象ですか?

白:潤は聞いてくる若手でしたけれど、ジャンプは気持ちやと思うんです。当然、技術も必要なんだけれど、中村にせよ、小坂にせよ、そういう気持ちが大事だと思うんです。やり方も人それぞれ違うし、フラットレースと比べたら、アブミも長くて、お客さんから観たら、見た目もかっこよくはないと思うんです。でも、違う競技をしているんです。それが……。

小:伝わらない?

白:あんまり、こうやって伝えようともしていなかったけれどな(笑)。

高:伝えていこう!

白:だから、こういう場を設けてもらうのがいいんです。ジャンプのレースが売れていないのならば、これから一番売れる可能性だってあるわけでしょう!

高:確かに!めっちゃ、ええ事、言っているわ!言う通り、一番伸びシロはあるやろ。

白:褒められたみたいで照れるな~。ファンの方々の応援のやり方だって違ったっていいんです。一つの飛越を越したら、もっと拍手があったり、少々フラットと色分けをしてもね。めちゃめちゃ危ないことをしているのに、知られていないのは寂しいでしょ。

高:でも、障害の方が、人気はある国はあるよね。アイルランドとか?

小:障害コースの内側がフラットのコースになっている競馬場もあるんですよね?

白:色々あるね。フランスは障害だけのコースもあるからね。

高:雄造君は海外でも乗っているからね~。

白:全然ダメだったけれどね。ま、いいか……(苦笑)。

高:俺からすれば羨ましいことだね。海外はどんな環境なのか、どんな場所で、どんなレースになっているのか?想像もつかないことだからね。

白:でも、現地で乗れたことは凄い貴重だったよね。フランスでは向こうのグリーンチャンネルみたいなものにも出たよ。言葉を喋れないから、通訳のおばさんを通して、「何しに来たんですか?」「勉強しに来ました~」みたいな感じで。他に何をしゃべったか覚えてはいないけれど、向こうで友達になった人が「テレビに出てたね」みたいに声を掛けられたりしました。

-:今後行かれる予定はないんですか?

白:行きたいですね。そういえば、今、弟がオーストラリアに行っています。フラットで今年10勝くらいしたけれど、生活にはならないみたいだから、将来的にはこっちに帰ってきて、助手をやりたいみたい。平成元年生まれでまだ若いし、28歳まではトレセンに入れるから、納得するまではそっちでやるみたいですけれど。でも、こっちに来た時に落ちずに入って欲しいですね……(苦笑)。

高:「示しがつかね~ぞ」って?

小:そういう人の牧場経験って必要なんですか?

白:いらないみたいよ。そもそも宇治田原(ステーブル)でも働いていたし。でも、身長も170くらいあるから、減量も大変みたい。弟に限らず、外に行ったら、色々な日本人の方はいますよ。技術的には足りなくても、免許を持っている人がいるし、恐らく、オーストラリアなど海外で免許を持つことはそんなに難しいことじゃないと思うんです。

高:オーストラリアって、騎手免許が3種類くらいない?

白:あるある。ランクがあって乗れる競馬場が分かれる。俺の弟も一番下のランクのところで。コフスハーバーってところで一年間乗っていたんです。ビーチがあるところに競馬場があって、ちょっと施設的には厳しい競馬場ですよ。そこに5厩舎くらいあって、馬も20~30頭くらいいて。
そこに日本人も4人くらいいましたね。廃止になった宇都宮競馬で通算700勝くらいした人もジョッキーをやりに来ていたり、普通に日本でジョッキーになれなくて、なりに来ている人もいましたし。

高:やっぱり、色々なスタイルがあるね。

-:そもそも、なぜ白浜さんは競馬界に入られたんですか?

白:全然、競馬に縁はなかったのですが、長崎県出身で親戚のおばさんが福岡にいて、場外馬券場で働いていたんです。僕は体が小さかったので「あんた、ジョッキーになったらいいじゃない」と言われたんです。でも、中学生だったこともあり、そんな仕事があるとも知らなかったんです。それを聞き逃していたら良かったんでしょうけれど、「どんな仕事なの?」と興味を持ったんです。
それで、ジョッキーのことを知って、母親に「俺、ジョッキーになりたい」とお願いしたら、「なるならば、乗馬をはじめないといけないでしょ?」という事で、乗馬クラブに連れて行ってもらって、そこで“ヤマニン(の冠名)”の馬主さんと仲がいい会員さんがいたんです。それでヤマニンさんを紹介してもらって、中学校のうちから牧場に行かせてもらったりして、競馬学校を受けたら、受かったんです。当時は中央も地方競馬も知らなくて、乗馬クラブの先生が荒尾競馬に知り合いがいるということで、「中央競馬を落ちたらおいで」と言われていて、落ちた場合の荒尾競馬で入る先も決まっていたんです。今思えば、ラッキーでした。僕の人生は最高によくできているなと思います(笑)。

-:その経緯を見て、弟さんも騎手を志したんでしょうか。

白:直接的ではないでしょうけれどね。弟が5歳の時には、(競馬学校入学で)僕はもう家を出てしまっていたんです。だから、今でも、弟と会っても、何をしゃべったらいいかわからないですよ(笑)。

小:マジですか(笑)?

白:さっきの同期の話みたいに、仲が悪いというわけじゃあないですけれどね。

高:俺の兄貴も俺が競馬学校に入ってから、競馬の世界を目指したからね。今、角居厩舎にいるけれど。

小:仲悪いんでしょ(笑)?

-:そうなんですか(笑)?

高:悪くない。単に興味がないんだ。

白:兄弟ってそんなもんだよね。

小:僕がジョッキーになった頃は、理事がそういう人だったから、障害レースを推進する流れがありましたね。そのころに重賞ができたんでしょうし。

白:重賞というと、今でも勝っている人はいるけれど、嘉堂(信雄元騎手)さんなんかは(格付けされる前の)大きいレースを俺なんかより沢山勝っているからね。重賞になっていないだけで。

高:でも、JRAのHPのプロフィールには載ってるで。

小:格がついていないだけで。

白:あ、そうなんだ。嘉堂さんのいい話があって。あれだけの人が障害騎手賞を獲っていなかったんだけれど、騎手晩年で賞をとったんだ。それで、ステージに上がって、トロフィーか何かを貰った時に「案外、軽いんやな」って言ったのよ。それがすごいなあって。

高:「案外、軽いんやな」のコメントの中に重みがあったと。

白:そうそう。そんなことって、なかなか言えへんやん。

高:それは物凄く重みに感じていたと思うで。それをあえて、そう言ったんだと思う。俺も去年の最初に「お前、普通に乗っとけばリーディング獲れるよ」って言われたんだ。

白:嘉堂さんに?えーっ!あの人、よー観てるよな。

高:俺もリーディング獲った事なくて、“障害界の鉄人”と言われていた人にサラッと言われたらね。

白:しかも、あんまり褒める人じゃないからな。

高:「マジで~?」って、なるじゃないですか?それで獲れなくて、嘉堂さんに年が明けてから「嘉堂さん、普通に乗っていたら獲れるって言うから、普通に乗っていたら獲れなかったんですよ」って言ったら、「馬鹿やろ!いつか獲れるってことだよ」って。去年の話じゃなかったんだ~って(笑)。

白:フラットの人と比べて目標は少ないけれど、そこに向かないと、なかなか張り合いがないですからね。それが危険な仕事なんですけれどね。

高:ジョッキーなら常にそうだけれど、障害になると、フラットレース以上により危険と隣り合わせですから。

-:ちなみに皆さん、今までに一番の重傷はどんな怪我でしたか?

高:俺は腰椎を折って、その時にアバラ3本折れていて、片方が肺に刺さって、肺が潰れていて、肺挫傷ですね。集中治療室に入って、3日くらい意識がなくて、一週間くらい記憶がなかったんですよ。

白:僕ら練習の時もバンバン落ちるので、交通事故的なのは、しょっちゅうあるんですよ。練習の方がよっぽど危ないですよ。競馬に行けるというのは、試験には受かっているわけですからね。そうじゃないやつの練習が危ないわけで。でも、それは世の中には出ないし、僕らが怪我するだけです。

高:障害でもポンポン飛んでも、この障害だけは絶対飛ばないってやつがあるんですよ。

白:馬も怖いんです。

高:でも、それを飛ばすのが僕らの仕事でもあるわけで、何回やっても飛ばなくて、ステッキでバチバチやって勢い着けても、2~3完歩前でゴンゴン!と止まりますからね。意地でも止まるんで。同じ馬に何度も落とされることもありますから。

白:一頭の障害馬を作るのに長い時は1~2ヶ月はかかりますからね。フラットも当然、調教はありますけれどね。その中でも、調教は人によってもやり方が違って、潤や小坂のように綺麗に飛ばせる人もいれば、雑な人もいる。そんな人の馬は怖く見えたりするけれど、その人それぞれでそれが違いだったりしますから。

-:話は戻りますが、小坂さんから見た、お二人の印象は?

小:白浜先輩は僕が落ちた後から、話すことが多かったです。パトロール室で「全然ダメですわ~」なんて言っていると、「そういう時もあるわ」なんて。そういう安心感がある人ですね。白浜先輩のおかげでそんな時にへこまなくて済むというか。

高:雄造君は重賞も一杯勝っているし…。

白:僕の目標は重賞に固執した騎手人生だったんです。でも、それが出来てきてから、拘りがなくなったというか、今は熱が欲しいです。

高:でも、それだけ勝っているし、勝たれている馬もたくさんいるんです。

小:僕もお世話になりました(笑)。

白:怪我をした時に乗り替わる事で、キングジョイもそうだし、スプリングゲントも、テイエムドラゴン、アイディンサマーも。

高:何年乗っても重賞勝てない人はいるし、雄造君はやっぱり“持っている”んです。そして、それだけ勝っているからこそ、言われて重みがある事もあるのでね。他の人が同じことを言うのとは違って、重みがあるというかね…。僕もディアマジェスティでG2を1番人気で負けたわけですけれど、ああいう時って、けっこうショックデカいんです。他の人に「アカンかったなあ」って言われても感じないことはあるけれど、雄造君にもレースが終わって、声をかけてもらって、気持ちが落ち着くところがありましたね。慰められるというか……。一番人気で惨敗したら、ガクっとくるところがありますから、それを察して、雄造君は「今回、色々あったからね」って言ってくれたんです。

白:そう。馬場もあったよね。

高:それもあるし、スクーリングでトラブルがあって、障害が設置されていなかったんです。前乗りして行った意味もなかったし、最終障害で落馬した馬が寝ていて、予測不能の事態があったり。今でも何が敗因かはわからないけれど、一緒のレースに乗っていて、なおかつ、実績を上げている雄造君にかけてもらった一言は大きかったですね。

白:すごく嬉しいな。

高:さりげない一言ですけれどね。スクーリングも一緒に行って、雄造君もアカンかったけれど、自分も悔しい気持ちがあるのに、人に言えるというのは凄いというか。

白:負けることには慣れているんですよ。

高:重賞もなんぼも勝っているけれど、それだけ悔しい負けもあるからこそ出る一言だったんじゃないかなと。

白:あの時は10回同じレースをやったら、一番勝つ可能性があったのは潤の馬やろうしね。でも、重賞タイトルだったり、障害ジョッキーは常に何かを目指さないといけないですよね。例えば、リーディングを目指すとか、重賞を勝つとか。僕もそういうのを目指していかないといけないし、たとえば、結婚するとか…。

小:アハハ。

高:そういうの最近あるの?

白:頑張ろうかなと(笑)。

高:この際、競馬ラボで募集しちゃいましょうか?

-:小坂さんも。

高:小坂はデッドボール以外、ストライクだから。言うたら、自分を好きになってくれる人がストライク?

小:そうなんですけれどね。

白:でも、それっていいよな。

-:でも、ジョッキーならモテるでしょう?

小:モテないです!

高:いやいや、小坂さんクラスになったら、モテるでしょう~。

白:ハハハ。いや、モテる気がないだろ。モテる気があったら、(高田騎手を指して)こんな恰好するだろう?

小:俺、こんなの(高田騎手を指して)無理です。

高:これ、ダサいのをあえて履くのが人生初めての経験やで。

白:大してうらやましいとは…。

高:そこがポイント!なんやねん、絶対股下深すぎるわ!みたいなね。そういうのをサラっと着る。

-:カッコいいじゃないですか?

高:それ、わかるの上級者よ。

白:これで馬には乗れないな。

高:まぁま、それ、普通の人は思わないからな。