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騎手コラム

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「ディープ以外も高い理由」現地取材班のセレクトセール2018回顧

1歳馬総括

日本最大の競走馬セール「セレクトセール2018」が、7月9日(月)と10日(火)、北海道苫小牧市のノーザンホースパークで行われた。初日の1歳馬、2日目の当歳馬あわせて464頭が上場され、416頭が落札された。落札率89.7%、落札総額179億3200万円、1頭平均価格4311万円は、いずれも過去最高を更新。1億円を超えるミリオンホースは39頭で、昨年の32頭を上回った。競馬ラボの特別取材班は、現場で「2つの大きな変化」を体感。例年以上の盛り上がりを見せたセールを振り返る。

驚異の1億円超え39頭、売却率89.7%!

「種馬に関係なく、いい馬が高く売れた。これは今までと違う傾向ですね」。

セレクトセール初日、1歳馬市場が終わった直後、総括したノーザンファーム・吉田勝己代表はこう語った。この言葉が、今年のセールの様子を最も的確に表現していると言っていいだろう。

始まって20年。数々の高額馬を送り出してきたセレクトセールは、今や世界最大級のサラブレッドセールの一つに数えられるまでに成長した。2日間合計の売却率は89.7%。1頭当たりの平均落札額は約4300万円に達している。これだけ高く売れて、かつ売却率が90%近くまで達するセールは世界中を見てもここだけである。

セレクトセール

1歳馬市場を振り返る吉田勝己代表

セール中、各購買者から必ず出てくるのが「高すぎる」という言葉。この言葉を裏付けるのが、初日の201番からラストの243番まで、欠場1頭を除く42頭が全て完売した事実である。ディープインパクト産駒は1頭もおらず、1億円を超えるような目玉もいなかった。通常、セール後半は購買者も少なくなり、主取という場面が少なからず見られるものだが、驚異の売却率100%である。

とある調教師は「確かに高いが、ここ数年の値段の伸び方を見ると、予測できた結果」と語ったように、確かにここ数年で売却率、売却総額は伸び続けていることからも、このような結果になることはある程度予測できていた。「高すぎる」という言葉も、何だかんだ毎年聞く言葉である。

値が上がらなかったディープ産駒の共通点

ただし、例年と少々異なったのは「ディープインパクト産駒の売れ行き」であった。

今年1歳で上場されたディープインパクト産駒は24頭。売却されたのは23頭。このうち税込で1億円を突破したのは12頭。昨年のこのセール、1歳セッションにおいて、ディープインパクト産駒は23頭上場の21頭売却で、そのうち税込で1億円を突破したのは9頭。「億超え」の率自体はそこまで変わらないのだが、昨年6分の5がミリオンホースとなったノーザンファーム生産のディープインパクト産駒でも、母ホットチャチャの牝馬が6200万円、母ラッドルチェンドの牝馬が5000万円、母シュガーショックの牝馬が6000万円と、予想された金額より「低価格」で取引される馬が多かったのである。

セレクトセール

2億5000万円で落札されたキングスローズの2017
ディープ産駒の牡馬でも3億円超えは出ず

5600万が低価格という表現が適切かどうかは分からないが、母ホットチャチャは兄が今年の日本ダービーで4着だったエタリオウ。母ラッドルチェンドは叔父にドバイターフを勝ったリアルスティールがいる。母シュガーショックも配合はディープ産駒の成功パターンだ。

ではこの3頭がなぜ価格が伸びなかったのか。その理由は体の大きさにある。3頭ともそこまで大きくはないのだ。今までも小柄なディープ産駒の牝馬の値段が伸びないことはあったが、ノーザンファームの良血馬たちはそれでも1億近くまで価格が伸びていた。それが今年はそこまで伸びない…。これはセール全体、どの種牡馬にも共通していたことで、今年は小柄な馬の苦戦傾向が例年と比べてもかなり高かった。

その代わりにと言うべきか、台頭していたのがキングカメハメハとハーツクライの産駒である。昨年1歳セールで上場21頭中5頭が5000万以上だったハーツクライ産駒は、今年1歳セールで上場14頭中7頭が5000万以上。

セレクトセール

1歳馬で2番目の高額落札はキングカメハメハ産駒
ミスセレンディピティの2017は2億4000万円

昨年1歳セールで上場8頭中3頭が5000万以上だったキングカメハメハ産駒は、今年1歳セールで上場11頭中6頭が5000万以上。両種牡馬共にすでにかなりの実績を残している種牡馬であるが、今年は例年以上に活発な取引が展開されていた。

産駒の実績ない種牡馬でも高額に

来年初年度産駒をデビューさせるキズナは1歳セールで上場10頭中1頭が5000万以上。エピファネイアは1歳セールで上場16頭中2頭が5000万以上。単純比較はできないが、『すでに安定した実績を残しているディープ以外の種牡馬』の人気が高かったセールだった。

今年初年度産駒をデビューさせ、新馬戦から好調のジャスタウェイ産駒にも人気が集まり、母マリアロワイヤルの牡馬はリザーブ価格から5倍以上の1億2500万。母メジロジェニファーもリザーブ価格の4倍以上の6800万で購買されるなど絶好調だった。

初年度産駒が初めてセールに上場されたドゥラメンテも同様に大人気で、2日目朝の当歳展示の際にはドゥラメンテ産駒の周りに人だかりができるなど注目を集めていた。産駒が生まれた当初から、各地で見栄えがいいとの評判にたがわず値段は上がり、母アイムユアーズは驚異の1億8000万で購買されるなど、20頭中19頭が落札される素晴らしいセールデビューを飾ったのである。

セレクトセール

1億8000万円で落札されたアイムユアーズの2018
初上場のドゥラメンテの初年度産駒は大人気

これが冒頭のノーザンファーム・吉田勝己代表の総括に繋がる。競走馬を投資と考えている購買者も増え、アドバイザーを付ける馬主は年々増えてきている。よりシビアに馬の奪い合いが展開されることで、もはや『ディープインパクト産駒だからみんな高い』という時代は終わりを告げようとしている。

海外オーナーは対応できず『作戦変更』

もう一つ印象的だったのは、初日の吉田勝己氏、2日目の社台ファーム・吉田照哉代表が共に総括で言及していた「海外からも本当に多くの購買者が訪れたものの、高過ぎて購入できなかった」という点だ。

今年のイギリス2000ギニーをサクソンウォリアーが、フランスダービーをスタディオブマンが制したことで、欧米のディープインパクト産駒の人気は過去最高に高まっていると言って過言ではないだろう。しかし年々高騰するセレクト市場に対応できず、海外関係者がセリ負ける光景を、今年は多く目にした。

セレクトセール

高額馬を次々と落札した里見治オーナー

セレクトセール

小笹芳央オーナー(右端)は1億円超え4頭を落札

世界を代表するクールモア・グループはここ数年の高騰から戦略を切り替え、サクソンウォリアーのように母馬を日本に送り込み、ディープインパクトを種付けして産駒や母親を本国に戻す手法に軸足を移している。すでに凱旋門賞馬・ファウンドは来日済み。サクソンウォリアーの母であるメイビーも今年の秋に来日し、共にディープインパクトが交配される予定だ。

フランスを代表する馬主であるニアルコス・ファミリーも同じ手法をとっている。今後海外勢はこの手法を中心にすることで、より日本人同士のマネーゲームに発展していく可能性は高い。これがいいことか、というと何とも言えない部分はあるものの、一昔前までは考えられない段階まで来ている。

吉田勝己代表は言う。「以前は一声で落札されていたのが、セールのレベルが上がって、活発な取引が展開されるようになり、ようやくサラブレッドセールらしくなったかな。最高のセリです。世界を見てもこれだけのセリはありません」と。日本生産界の巨人に『世界最高』とまで言わしめたセレクトセール。開始から20年以上が経過した今、世界で例がない、新たなステージに入ろうとしている。