さすが年度代表馬、キタサンブラック レコードで天皇賞を連覇! 【平林雅芳の目】

キタサンブラック

17年4/30(日)3回京都4日目11R 第155回天皇賞(春)(G1)(芝3200m)

  • キタサンブラック
  • (牡5、栗東・清水厩舎)
  • 父:ブラックタイド
  • 母:シュガーハート
  • 母父:サクラバクシンオー

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快晴の淀競馬場。春の天皇賞である。びっしりと大勢のファンで埋まったスタンド。大歓声の下で行われた今年の天皇賞は、堂々の1番人気の支持を受けたキタサンブラックが、ヤマカツライデンの大逃げの2番手から4角先頭の形で、シュヴァルグランの追撃を封じての春連覇。何と、ディープインパクトのレコードを塗り替えるタイムには場内のどよめきが。そしてその後には、大歓声がいつまでも響きわたっていった…。

予報通りに温かい行楽日和となった30日。朝から人が多く、パドックへ辿りつくのにいつもより時間がかかる。場所取りもいたりして、けっこうスムーズに動けない。パドック、返し馬とレース前にするいつものルーティンが出来ない。天皇賞だけはと思っていたが、到底無理と判断。馬場入場をしっかりと見てやろうと、カメラマンの待機する場所で馬場内オーロラビジョンをしっかりと見て待つ。
最初に入ってきたのがMデムーロJのレインボーライン。そこからしばらくして地下道から検量室前、そして馬場入場と出てきた。本当に眼の前をキャンターで駆け抜けていく馬には迫力を感じる。傍にはJRA御用達なのか、タクシー運転手達が数人見に来ている。

先輩天皇賞馬のビートブラックに誘導される様に、各馬入って来た。キタサンブラックが首をグイっと下げて、それもいつもより角度が深く、精悍さを増して去って行った。ディーマジェスティはまるでロデオかと思えるような、鞍上の蛯名Jを困らせるほどの動きで駆け抜けていく。ゴールドアクターは、いつもよりいれ込みがましではないかと思える雰囲気で入って去って行った。サトノダイヤモンドは、いつもの彼らしい落ち着いた雰囲気で眼の前を厳かに過ぎて行く。シュヴァルグランもいい。シャケトラには少し気負いを感じた。若さだろうか。
持っていた競馬専門紙に書き込みをしていたが、後で見るとキタサンブラックとサトノダイヤモンドの2頭に〇をつけていた。2強対決と言われているのだから当然の出来栄えであろう。
そしてファンの支持である。前日終了段階ではサトノダイヤモンドが1番人気で、キタサンブラックをかなり上回るものであった。それが今朝のいつの段階からか、キタサンブラックのオッズがどんどんと伸びて行くのには驚いた。ファンが認める支持である。これほどに心強いことはない。向こう正面過ぎのゲート前で、スターターが壇上に上がった。

ヤマカツライデンが逃げると言われる。だが、ハイどうぞとは最初から行かせる乗り方は誰しもがしないだろう。まずは自分の馬のゲートのタイミングを合わせて好スタートをしてから、思い思いの位置で乗るものだろう。
キタサンブラックは、ゲート内で少し体勢が悪い様に見えた。《大丈夫か?》と思えたが、そこはスタートの巧い武豊Jである。開いた瞬間には、すっと前に出て行った。後でビデオを見ると、ヤマカツライデンもいいスタートは切れている。むしろ一番いい出だったかとも思える。だが内外の差で、一番前に出るまでに1ハロンを有している。
スタートではゴールドアクター、シャケトラなどが出が悪かった。そのシャケトラが1ハロン行ったあたりで内の5,6番手まで来ていて、さらに順位上げて来るのが判った。ちょっと馬が気負って前向き過ぎるのを感じる。何とかなだめて、カーブを廻っていく。
アドマイヤデウス、シュヴァルグラン。ワンアンドオンリーがこんな位置にいるとは。そこから3馬身ぐらい後に、サトノダイヤモンド。アルバートがいて、少し離れた後ろにゴールドアクター。坂を下って行くヤマカツライデンだが、どんどんと先へ先へと行く。これは大逃げを狙うのか。

眼の前、ゴール板を過ぎ1コーナーに入る少し手前にあるカメラマンの荷物置き場、待機所の真ん前を通っていく。
先頭を行くヤマカツライデン。2番手キタサンブラックとの差はかなりある。そりゃそうだろう。ゲートを出た最初の1ハロンは必ず遅いが、次からの6つのハロン全てで11秒台。それも5ハロン目までは11秒台前半で飛ばすヤマカツライデンの行きっぷりである。その後を13.0と遅くした様だが、後ろが離れ過ぎていて、そこまで気がつかないほど。
サトノダイヤモンドの位置を確認する。有馬記念の時は2コーナー過ぎに《こんな位置にいるのか?》と驚くほどにキタサンブラックのすぐ後ろに位置していたのだが、今日はけっこう離れた位置となっている。枠順のハンデが大きく影響していると感じる。

向こう正面を過ぎて2回目の坂を上がるあたりでは、キタサンブラックとの差が少し短くなったのが遠くからでも確認できる。最後方のレインボーラインとは1ハロンぐらいの差があろうかのヤマカツライデン。
坂を下って行くが、あきらかに差が縮まりだしたヤマカツライデンとキタサンブラック。いよいよ大詰めが近づいてきているのが判る瞬間だ。3番手のワンアンドンオンリーの手応えがかなり悪い。サトノダイヤモンドの位置はと見ると、そんなに前との差を詰められてはいない。また手応えもあまりいいとも思えない。
4コーナーが近づく。ヤマカツライデンの松山Jがチラっと後ろと言うか、もう横に来ているキタサンブラックの方を見た。そして、カーブではキタサンブラックが先頭で廻って行った。

すーっと差を広げて入ってきた直線入口。2番手にはシュヴァルグランが上がって、サトノダイヤモンドはその外。まだ前とは差が詰まっていない。アドマイヤデウスが内に忍び寄ってきた。その外へシャケトラだが、もう手応えが残っていない。そして内廻りのラチが見えだしたあたりでは、キタサンブラックと後ろの馬との差がそんなに縮まらないのを見て、《よし!もう少しや~、頑張れ!》と声に出さないでつぶやいていた。
ラスト300の赤い棒を過ぎる。左ムチから右に替えた武豊J。ラスト200を過ぎる。少しずつ後ろの馬との間がなくなってきてはいるが、まだ行ける。もう少しだと、叱咤激励の念で応援する。ラスト50。どうやらキタサンブラックが押し切れそうだ。
ゴールがけっこう遠く感じる瞬間ではあったが、武豊Jのステッキを持つ右手が1回上がったかと思う。思わず、《よっしゃ~!》とあたりをはばからずに大きな声を出してしまっていた。

引き上げてくる各馬の後、ユックリとキタサンブラックが帰ってきた。スタンドの大声援に応える武豊J。傍を通る時にチラっとこちらを見て、そのまま検量室前の枠場へと入って行った。
後はTVでご覧のとおり。北島三郎氏が迎えてくれており、武豊Jとしっかりと抱擁を重ねていた。枠場で鞍を外して周回する前のキタサンブラックの息遣いが、もう普通の息遣いに収まっているのにビックリ。この心肺能力が、あの持久力をもたらすのだろうと感心する。
後刻に福永Jとも話せたが、『負かしに行こうと思っていたが本当にジリジリ、チビチビとしか差が詰まっていかない。いや~強いわ~』との言葉だった。ルメールJもMデムーロJも、引き上げて行く時に祝福のサインをして去って行った。

火曜朝、坂路角馬場では一番先に清水久厩舎の馬達が廻っていた。押田助手をはじめ4,5人の乗り手と、互いに祝福と労いの言葉をかけあった。いい笑顔ばかりだ。どこに行っても『良かったですね~』と声をかけられる。本当に嬉しいことである。
坂路監視小屋でも、友道師が『おめでとうございます』との言葉をかけてくださった。相手の力を祝福する。そして次のステージへと新たな一歩を踏み出すのがスポーツマンシップ。まだ気持ちがフワフワしていて嬉しさばかりの当方が、一番浮ついている様である。 いや~、勝つって素晴らしいですね…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。