デビュー3戦目のクイーンCで重賞を制覇。クラシックの活躍が約束されたかに見えたウキヨノカゼだが、直前に脚部不安を発症してそこからが苦難の始まり。復帰後は試行錯誤を経た後にスプリント路線へと矛先を換え、2戦目のキーンランドCで即座に結果を出して見せた。高い資質があるが故の勝利には違いないが、そこにはスタッフの懸命の我慢とケアがあった。夢の続きとなる晴れ舞台、スプリンターズSに向けての態勢を菊沢隆徳調教師に聞かせていただいた。

スプリント路線に定めた経緯

-:スプリンターズS(G1)出走するウキヨノカゼ(牝5、美浦・菊沢厩舎)について聞かせてください。長期休養明けから先生も調教に乗られていますが、その頃の馬の状況を振り返ると、どのような感じでしたか?

菊沢隆徳調教師:かなり体も緩んだ部分がありましたね。ただし、スイッチが入りやすいところがあるので、動きは久々を感じさせないものでした。あまりに長く休んでいるので、急には上げていかず、徐々に徐々に上げていく形で、復帰戦を迎えました。

-:復帰戦から数戦の内容を振り返っていただけますか?

菊:競馬自体は前向きさと器用さが出ていましたね。結果が締まらず、4戦ですか……。大敗が続きましたね。2戦目、3戦目くらいで、もしかしたら短いところの馬になってしまったのではないかと思いました。

-:短くなった要因とはどんなことから考えられますか?

菊:適性や気性的なものです。かといってスピードに任せた競馬はしたくなかったので、1400mで終いからの競馬をさせても良いとは思っていました。

菊沢隆徳調教師

-:1400mのうずしおSを使った内容をご覧になって、距離短縮に対する見通しはどうでしたか。

菊:あのレース自体はスタート後、寄られて挟まって、直線で行きかけたところでも行き場がなくて……。ただ、余力はあったので、スムーズならば、もう少し良い競馬はできていましたね。

-:距離短縮は向いてそうだなと。

菊:そうですね。手応えはありました。

-:それでスプリント戦を目指そうと考えたのですか?

菊:そうですね。脚部不安で休んでいたので、ここで間隔を空けてリセットさせました。北海道の1200mの洋芝だったら、時計が速くなるわけではないので、そこで復帰させようと思いました。

-:1200mのTVh杯の内容を振り返ってどう思いましたか?

菊:やっぱり重賞を勝っているだけの能力はあると思いましたし、1200mの競馬も合うと思いましたね。

念願叶ったキーンランドCの勝利

-:キーンランドC出走は勝利後に意識したのですか?

菊:脚部不安で休んでいた馬なので、まずは馬の状態をチェックしていました。次走は決めていなかったのですが、思いの外、ダメージもなかったですからね。オープン特別ではなく、賞金的に出られなかったとしても、キーンランドCを目標にしようと。

-:当日の仕上がりはどうでしたか?

菊:函館からの輸送だったんですよね。普通、輸送をしたら、馬は競馬に向かうと思うじゃないですか。だから、競馬だと勘違いしてしまって、すごく気合が入っていました。レース前日は私が乗ったのですが、馬場入りも吹っ飛んでいくんじゃないかというくらい。体は悪くなかったのですが、気持ちが戦闘モードになり過ぎてしまいました。

-:そこをなだめるために、対処もなさったわけですよね。

菊:ガス抜きで馬場を1周させてあげさせましたが、調教ではなかなかテンションが抜けなかったです。調教が終わってしまえば、また落ち着くのですが……。当日も「これはどうかな」と心配はしていましたね。案の定、今までになくパドックでも気合が入っていて。二人引きであんなにグイグイ行くというのも、今までなかったのでね。


「ジョッキーの判断によるところが大きいですね。前走で乗ってもらって、ああいう脚を使えると分かっていたので」


-:レースをご覧になってからはどうでしたか?

菊:返し馬をすると、スッと落ち着くのです。普段も調教後は落ち着きます。そこまでが、(テンションが)こもるタイプですね。

-:抜けるまでの間が、ということですね。

菊:ええ、そうですね。コントロールが難しかったですね。

-:それだけ消耗があっても結果が出せたと。

菊:その辺はジョッキーの判断によるところが大きいですね。前走で乗ってもらって、ああいう脚を使えると分かっていたので。

-:四位ジョッキーとはレース前にはどんな話をされましたか?

菊:「四位ちゃん、ゴメン。今日はうるさいよ。テンションが高いかも」と伝えましたね。

-:見事な差し切り勝ちでしたが、レース後の状態はどうでしたか?

菊:美浦に帰して競馬の疲れ、輸送の疲れがありました。1週間から10日間は回復に努めました。今は元気が良いし、コンディションも良くなってきたと思います。

夢のような話を現実にする大舞台

-:前走後から中4週でのスプリンターズSとなります。今朝の1週前追い切りはどうでしたか?

菊:変則開催後ということで、テンションを考慮しました。(本来の追い切り日より1日遅れたため)木曜日だと周りも速いところをやったりしますし、今週はしっかりやりたかったので、金曜日でいいかと思いました。落ち着いた環境でやりたかったのでね。乗り手にも聞きましたが、速過ぎずケロッと走っていましたし、なおかつ時計は出ていたので、十分な内容ではないかと思います。

-:前走後も良い調整過程を歩めているということですね。最後に、スプリンターズSに向けての意気込みをお願いします。

菊:G1は雰囲気が違うと思うので、そこが心配です。競馬に関してはメンバーも強くなるし、スピードも違うでしょうから、どうなるかわからないですが、おそらく後ろに位置すると思います。どう転んでも前には行かないと思います。

菊沢隆徳調教師

9/25(金)、ウッドコースで追われて6F83.2-14.0秒を馬なりでマークしたウキヨノカゼ
(写真は24日撮影)


-:促しても、ですか?

菊:けっこう促しますけどね。クイーンCで勝った時も出脚が良くなかったものの、ジワッと長く良い脚を使えるので、小脚がつかえない分、そんな競馬になりました。そういった意味で位置取りに注文はないです。四位騎手に任せています。

-:自分のリズムでスピードに乗って、ということですね。

菊:そうですね。この間みたいに4コーナーで先頭に並ぶことはないでしょうから。少々遅れても坂があるし、最後にしっかり脚を使ってくれればと思います。

-:長期休養も挟んだということは、先生の思い入れもひとしおではないですか?

菊:古馬になってG1に出られるまでになるとは思いませんでした。私だけでなく、オーナーをはじめ生産者の方も同じ気持ちだと思います。夢のようなことです。

-:あれだけ長い時間休ませて、もう1回復帰に向けたのは期待からですか?

菊:能力があってこそだし、馬主さんの我慢もありました。経費もかかるし、女馬だから繁殖入りという選択肢もありますが、もう少し競走馬として走らせようという考えはあったと思いますが、まさか……ですね。

-:さすがにもうひとつ重賞を勝つとは思いませんでしたか。

菊:準オープンを勝った時で嬉しい、重賞に出られるだけで嬉しい……。そして、それがまさか勝つとはね。さらにG1に出られるとなって、もっと嬉しいです。あとはレースまで上手く調整できればと思っています。

-:応援しています。ありがとうございました。

菊:ありがとうございました。