3月11日の金鯱賞(7着)で5年にわたる現役生活を終え、繁殖入りしたデニムアンドルビー。可愛らしい性格、美しいルックスから抜群の人気を誇り、一部の競馬ファンに『デニム・ロス』を巻き起こしつつある。その競走生活は、決して順風満帆ではなかった。屈腱炎、そして……。今回、5年間担当し苦楽を共にした小滝崇調教助手に、出会いの秘話、今だから明かされる『空白の2ヶ月間』、愛馬へのラストメッセージを聞いた。

「1つずつ何かが終わっていくことが寂しかった」

-:無事に引退レースを終えられました。今の心境はいかがでしょうか。

小滝崇調教助手:まずは屈腱炎の再発などケガが原因ではなく引退できることに、ホッとしています。今まで長いことお付き合いしてきましたので、当然寂しい気持ちもありますが、競馬で走るだけが仕事ではありませんから。繁殖としていい子を出してほしいです。

デニムアンドルビー

-:引退はいつ頃決まったのでしょうか。

小:引退自体は1月の半ばには決まっていました。中山金杯が終わって、春までにめぼしいレースがなく、オーナーさんと先生で相談した上で、3月に一度使って繁殖にあげましょうという話で落ち着いたようです。中山牝馬Sも視野に入っていましたが、中山金杯であれだけ上手に立ち回ったのに届かなかったですからね。のびのび走れる中京の金鯱賞で引退レースを迎えることになりました。

-:放牧から帰ってきた後、金鯱賞までの中間は寂しさもあったのではないでしょうか。

小:金鯱賞に向けて調教していかないといけませんが、調教を重ねるにつれて、競馬に向けて毎回やっていることが少しずつ終わっていくんです。「ああ、この作業をもうすることはないんだ……」とその都度思いました。いつもレースの一週前追い切りが終わるとタテガミを編んであげるのですが、「もう編むことはないのか」と思いながらやりました。こうして、1つずつ何かが終わっていくことが寂しかったですね。

-:金鯱賞の調子はいかがでしたか?

小:かなり良かったと思います。身体も思っていた体重まで調整できましたし、毛ヅヤもレースに向けて良くなっていましたので、自信を持てる仕上がりでしたよ。

-:今は冬毛でモコモコですね(笑)

小:競馬の時は馬の汗で毛がシットリしているところもあるんです。でも今は北海道に送り出すまで引き馬しかやらないため、汗もかきませんから。

-:今回、引退レースを前にして行きっぷりが良くなったとお聞きしましたが?

小:今までは調教もしやすくて、うちの厩舎の調教の時計通りにいつも走ってくれる子だったのですが、放牧から帰ってきてから、特に坂路を上る時に少し速く行き過ぎているのではないかと思うくらい、グイグイ力強く進んでいきました。時計をセーブするのが大変でしたね。追い切りは今回太かったこともあり、しっかり動かしたつもりでしたが、本当に思っていた以上に動いた印象を持ちました。

デニムアンドルビー

-:小滝さんがパドックで手綱を引きながら、デニムと話している光景を目撃したファンも多かったようです。

小:ハハハ(笑)。デニムにだけではないのですが、パドックで歩いている間、馬に話し掛けることはあります。この間の金鯱賞は「お客さんがいっぱいいるねぇ」など、そんな風に話し掛けていました。

-:ほほえましい光景ですね。引退レースでしたが、他に何を話しかけたりされたのでしょう。

小:パドックを回っていたら、ファンの皆さんから「デニムちゃん頑張って!」と声が聞こえてきたんです。なので「頑張って、って言ってるよ」と話しかけていました。

-:こうしてデニムを引くのも最後でしたね。

小:そうですね、パドックで引っ張っている時やコースで馬を離す時にファンの皆さんに声を掛けてもらって、何というか、ジーンとしました。もちろん仕事が終わったわけではないのですが、無事に送り届けられたかなという気持ちになりましたよ。レース中はこの馬らしい競馬をしてくれたら……という思いで見ていました。

-:パドックでよくファンのカメラをジっと見るとおっしゃっていました。金鯱賞もパドックではずっと『カメラ目線』だったのでしょうか?

小:そうですね。今回は検量室前のほうを眺めていたり、ファンの皆さんのほうを向いてみたり。今回はパドックの内側も見たりと、いつもよりキョロキョロしていましたね。

-:レース後の疲れはどうでしたか?

小:特に何かグダっとするところはなく、馬は元気でしたよ。

-:もう一回レースを走れそうですね。

小:冗談で、「万が一、強い馬たちといい勝負をしたらもう一度走っても面白いかも」という話はしていました。ただ繁殖のことを考えれば、今引退しないといけませんからね。

「優しい子ですから、いいお母さんになってくれる」
デニムアンドルビー・小滝調教助手インタビュー(2P)はコチラ⇒