レーヌミノルが後続を封じて優勝!夏の女王が桜の女王へ!!【平林雅芳の目】

レーヌミノル

17年4/9(日)2回阪神6日目11R 第77回桜花賞(G1)(芝1600m)

  • レーヌミノル
  • (牝3、栗東・本田厩舎)
  • 父:ダイワメジャー
  • 母:ダイワエンジェル
  • 母父:タイキシャトル

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朝まで雨がかなり降っていた。スタートは重馬場だった芝だが、風が強いのかどんどんと渇きだす。時計も早くなりだして、9Rから稍重まで回復した。
大勢の見守るパドックで落ちつきある馬の1頭だったレーヌミノル。すっと好位の4番手の外めから早めの先頭で、そのままソウルスターリングの追撃もシャットアウト。最後はリスグラシューに半馬身差であった。本田師はジョッキー時代に桜花賞2勝の桜男だったがG1初勝利を桜花賞で飾った。

ひとつ前のレースのパドックでの周回が終わっても馬がいなくなっても、周りの人はそのまま動かない。人と人との隙間がないぐらいに埋まっている。今年の桜花賞の、無敗馬ソウルスターリングの人気が判るものでもある。
やがてパドックに周回しだした乙女達。相変わらずソウルスターリングの歩きは落ちついている。時折、厩務員さんに甘える仕草をしている。その後ろのアドマイヤミヤビもゆったりと続く。アエロリットもおとなしい。レーヌミノルがやけにじーっと周回しているのが気になる。この落ちつきぶりは他の馬とは異なるもの。なにか違う。わがリスグラシューは、担当の北口厩務員が白のスーツを決め込んでいる。それが実に目立つ。ここが勝負と正装で来たのだろう。馬はプラス体重で出てきて欲しかったが、前回がこう言っては何だが、最低のラインで中身が大違いだと思ってはいるが…。これで通用しなければ一生、ソウルスターリングには適わないものかと思ってもいた。

7Rの4歳上500万下のレースが、まったく同じ舞台設定。ジョッキールーム前にあるPVを観に行くと、武豊Jも同じく見ていた。午前中の3歳未勝利戦が1.37.2で桜花賞もいくら乾いても36秒台の前半ぐらいかと見込んでいたのが、いきなり1.34.9。角居厩舎のアナザープラネットが勝った。その時計の速さにビックリしてPVで確認に来たのだが、武豊Jは芝の傾向を映像で見に来ていたものと思える。素人はあまりの差に驚いて判らなくなるが、ジョッキー達はそこを受け止めて対策を考えるのだろう。内が伸びだしたから内を選択する、そんな簡単なことではなさそうだ。ポカポカ陽気にはなってないものの、けっこうな風が渇きを早めたのだろうが、それにしても驚きの馬場の速さである。

これならソウルスターリングも馬場を気にしなくていいのだろうと思い込む。 雨が上がって渇きだした時にディープインパクト産駒が走る傾向にあると知っているが、今年のディープインパクトの子供はカワキタエンカ1頭だけ。そのカワキタエンカが2ハロン過ぎて一気に前へと出て、後続を4馬身ぐらい離して逃げたのには驚いた。ウゼットジョリーがベルカプリ、ショーウェイらを交わして先頭に立ったかと思った2ハロンを、半分ぐらい過ぎたあたりで、和田Jが内をチラっと観ながら一番前へと出て行った。それも弾かれたゴムの様な勢いでだ。
3コーナーのカーブに入って、前半の3Fが34.7と場内のビジョンに刻まれる。第二集団から離れた第三の集団には、アエロリットを先頭にカラクレナイ、ディアドラ、そして一番後ろがアドマイヤミヤビにはビックリだ。

当然にスタートからリスグラシューの位置を見ている。左前にはソウルスターリングがいる。すぐ内にはミスエルテだ。前ではレーヌミノルが4番手の外にいた。第二集団の12頭がそんなに差のない位置でひしめき合っている。カワキタエンカの逃げはそのまま次のラスト800のハロン棒でも衰えずに5馬身と、先ほどよりも差を広げたかの様である。
第三集団が前にだいぶ近づいた。カワキタエンカを先頭に、4コーナーへと入ってくる。1頭だけ前にいて、後は大きな集団になった様に見える。この時にアドマイヤミヤビはステッキを入れているのが後で見えた。馬を促してスイッチを入れたのだろうと思える。

その全体が見えた外廻りのラチが切れるあたり、横に広がった隊列となる。カワキタエンカ先頭だがウゼットジョリー、ショーウェイ、レーヌミノル、その外のソウルスターリングが斜めに一列となって手応えも十分。リスグラシューはソウルスターリングの後ろである。
内廻りのラチが現れて、カワキタエンカがまたそのラチ傍を選ぶ。だが後続がだいぶ接近しだした。レーヌミノルの池添Jが手綱を絞る。ソウルスターリングのルメールJが追いだしにかかりそうである。リスグラシューの武豊Jがソルウスターリングの外へ出してくる。

ラスト300、レーヌミノルがカワキタエンカを捕らえたかの瞬間に、池添Jの右ステッキが入る。ソウルスターリングがやや内へと切れ込みそうになる。左から右にステッキを持ち替えたルメールJ。でも前を行くレーヌミノルを勢いで上回らない。ラスト200、まだカワキタエンカが粘っている。そこへ何とかレーヌミノルが追いついたか。ソウルスターリングの伸びがそうない。

大外をアドマイヤミビがMデムーロの右ステッキで呼応しているが、もうひとつ伸びきれてない。むしろその内をアエロリットの方が伸びていく。リスグラシューの外へカラクレナイが勢いで勝って伸びだしていく。
レーヌミノルが前に出た、ソウルスターリングが追うが伸びきれない。カラクレナイと並んでリスグラシューも伸びだした。
レーヌミノルが誰も居ない前へと出た!リスグラシューが伸びていく。届け!の願いも虚しく半馬身差までであった。ソウルスターリング3着、カラクレナイ4着。アエロリットが5着で、2着から5着までがクビ・クビ・クビ差の接戦であった。

検量室前、本田師が一番先にやってきていた。握手を願う。勝者を祝うのは当たり前のこと。桜花賞をテイエムオーシャンとカワカミプリンセスで勝利したジョッキーが、調教師となって最初のG1をやっぱり桜花賞で達成する。
夏前から、凄く走ると見聞きしていたレーヌミノル。夏の女王は当然であったが、そのあとがもうひとつ結果が出なかったが一貫して『距離は持つ』と断言していた本田師。見事な勝利であった。

武豊Jと四位Jと横山典Jがレーヌミノルの表彰式のTVを見つめていたところにお邪魔する。リスグラシューの4角手前のあの手応えの悪さを訊きたかったのである。『タイトなところで、かなり馬が気を遣っていた』だったそうである。
返し馬でポケットで待機している時にレーヌミノルが『もの凄く落ちついて、不気味に良かった』と四位Jと口を揃えて言う。その四位Jに武豊Jが『ミスパンテールはどうだった?』と訊くと『位置を取りに行って、弾かれて終わってしまいました…』であった。トライアルの最高の競馬と真逆な競馬になった様子だ。
そして『あ~、悔しい!』と珍しく口に出す武豊J。あの4角手前でのタイトな場所でのタイミング(内と外との馬と乗っているジョッキーの動きなど)を、かなり悔しがってもいた。そこは乗っている者でないと判らないものだろう。今年の桜花賞の見るべきポイントだった気がする…。

ソウルスターリングに、3000万円もの単勝馬券の購入があったとの噂を聞く。ネットで調べると、土曜の昼前であろうかと思える。あの時点で買うのはよほどの勇気がいる。雨が降りそうな空模様であったのにである。土曜の夜にかなりの降雨。そして日曜はどんどんと馬場が乾いてきたから、その大口投資の思惑も成功したかの雰囲気もあっただろう。だが一度も一番前に出れないままソウルスターリングの桜花賞は終わった。
一度も負けなかった馬が、本番の桜花賞で負けてしまう。『勝負事に絶対はないのである』と女神が言っている様な気がした…。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。